2015-01-01から1年間の記事一覧
コンビニで売っている愛は量販店の洋服のようなもので、街中で見かけるとすぐ気づいてしまう。道路の向こう側、信号待ちをしている男性と愛がいた。購入時期が近いのかそっくりだ。交差点ですれ違う俺と彼と愛二つ。ふと俺の隣に立つ愛のほうが可愛く思えた…
君はポケットに残ってしまうような些細な燃えるごみを植え込みに捨てる人だった。僕は両親からそういう教育を受けていなかったので驚いたけれど、「土に返るなら燃やすよりいいんじゃないかしら」という言葉にあっさりと言いくるめられた。なるほど、たしか…
昔のことだ。僕がまだ子供のころのこと。 流れの百物語一座が来るというので、町内会は盛り上がっていた。もちろん僕の家も。父さんと母さん、それに妹。家族で近所の神社に張られた巨大な赤テントに入ると、隣の佐々木さんとか、久美ちゃん家もすでにきてい…
休暇の取得が秋までずれ込んだけど金沢に旅行に行ってきた。 新幹線が開通したことと、ポスターの写真がよかったこともあり行き先を金沢に決めた。そう、ポスターだ。その存在を今この瞬間まで忘れていた。僕の脳みそはところてん方式で、古いものを覚えてお…
今日から一週間、町内会で決められた街路樹当番だ。僕はこの当番が好きだった。父や母は仕事で忙しいから、代わりに僕が街路樹になる。樹になっている間はぼんやりしていていいし、学校も休みだ。でもこの時期のイチョウはやだな。この時期は朝からおばあさ…
「あたし本当は手紙なのよ!」幼馴染の彼女が唐突なことを言うのはいつもの事で、幼かった僕はそれに付き合っていた。「未来にも出せる?」「あたりまえでしょ!」じゃあ、と15年後の僕に届くよう願った。翌日彼女は行方不明になった。もう少しで約束の日。…
理想の女性が店先にいると思ったらマネキンだった。女物の洋服を扱う店だったけれど足しげく通った。誰だって自分の好みの店員がいればその店をよく利用するだろう。そうこうしている間に季節が変わってマネキンも変わってしまった。仕方なくマネキン買いし…
超有能なスーパー新入社員がいま、わが社の業績を支えている。高性能AI搭載自立学習型アンドロイド山田君は月給17万円で年中無休働き続けるナイスガイだ。ATOK搭載で関西弁もばっちりである。しかし、彼はいまだにISDN回線しか使えなくて、重たいファイルの…
クリーニングに彼女を出す。なんでも洗いますと書いてあったからだ。彼女は薄汚れて駅前のベンチで横になっていたが、磨けば光るとすぐにわかった。一週間後に取りに行けば、彼女は見違えるほどに美しくなっていた。「次からはプレミアムコースがいいですよ…
ベンチに腰掛けていたら、前を通ったカップルが俺のほうを見た。何かおかしなところがあるだろうかと思ったが何のことはない。隣のベンチに家なしの老人が一人、ダイナミックな寝姿で横になっているのだ。エビ反りのような姿勢で、背中と座面には隙間ができ…
仮装でごった返していたはずの渋谷も翌日の朝には一度その騒ぎ終えて、静かなものだ。大学の連中も帰ってしまった。目の前の山田だけを残して。俺も帰ってもよかったのだけど、カボチャのかぶりものをしたこいつが電信柱によりかかったまま、カラスについば…
向かいに座る彼女をドーナツの穴越しに眺めてみた。「何が見えた?」「君と、幸せそうな俺かな」彼女はほっとした様子で、オールドファッションを一口。ドーナツ越しに未来が見えるなんて戯言を信じてくれた君が好きだった。ドーナツホールがCに変わる。君が…
Tumblrからはてなブログに引っ越してみました。一週間の住処でした……。 テンプレートデザインは同一なので、そこまで違和感がないと思いたい。 移行作業はエクスポート→変換の流れが面倒な気がしたので、手作業で。とりあえずしばらくははてなブログを使って…
霜柱を踏みながら小学校に通うのが好きなのだけど、最近は先客に踏みにじられた跡だ。犯人は知ってるんだ。バス停に立っていたお姉さんだ。白い靴がふやけて、土汚れがにじんでいた。僕は知ってるんだ。あの人が泣きそうになりながら、霜柱を踏んでることを…
刀鍛冶が作の出来映えを知りたくて、出入りの商人、果ては妻娘まで切り裂いてしまった。とらえられた彼はその最後の一振りでの打首を望んだのだが、処刑人の腰が引けていけない。縄をはずせ、刀をよこせ。戸惑うあたりをよそに処刑人はいわれるがまま。男は…
ジェットコースターがレールを外れ月に向かって飛び出した。メンテナンスエンジニアの仕業だ。彼はこの遊園地が好きだった。もうすぐ廃園になるけれど子供のころから通っていた、大切な場所だ。記憶の中にだけでもここが残ればいい。それが月に行くコースタ…
収納を増やそうと買ってきたのはプラスチック製の引き出しだ。四段もあれば足りるだろうと、さっそく一番下の引き出しを開ける。特に取説もない完成品を買ってきたのだが入っているものがあった。折りたたまれた布のようなものだ。一体これは何かと思い出し…
救命用の浮き輪から手を離す。これで君は助かるだ。なのに沈む僕の手をつかんだのは残してきたはずの君だった。そういえば船に乗る前に言ってたっけ。「海の底には白く光る街がある」って。不思議なほど静かな海中を、君と固く手を結んだまま沈んでいく。白…
有給消化である。 今月、かなりの勢いで有休を使用している。来月から忙しくなるかもよ、という啓示が来たからである。 なるなる詐欺(忙しくなるからそのつもりで、が先方の都合により肩透かしをくうことになること)の可能性もあるのだが、これ幸いと休む…
週刊「ポンパドール夫人」の購読を初めて数か月が経つ。第24回のパーツは左手の小指、第一関節。完成までの巻数は明らかにされていない。生きているうちに完結するのかも怪しいのが、それでも絶世の美女を組み立てることができるというのは楽しい。うまく組…
「お腹が痛い」と道端にうずくまる女がいた。腹をとってしまえばいいではないかと提案したら、彼女はどうして気が付かなかったのかと胸の下から腰の上までをすっと取り外してしまった。「お礼に」と言われ、その取り外された腹を受け取ったのだが、捨てるわ…
スーパーを出て視界に入ったのは蜘蛛だった。歩道の中央にぷらぷらただよい、これから巣作りなんです、といった具合に横糸を街路樹と壁に張っていた。道をふさぐほどの大きさになるだろう。巣を眺める僕を追い抜かす人がいた。トレーニングウェアを着た若い…
三度、君の復活を願うが蘇る気配はない。今夜は流星群が訪れている。まだチャンスはあるだろう。人の死により星が流れるというのなら、今宵、どれだけの人が死んだのか。僕は明るくなってきた空に、願うことをやめた。「どうしてやめるの」背後から聞こえた…
唐瓜直という筆名で活動をしている(し始めている)のだけど、何かを書く場所がほしいなと考えていた。 勤務先で夏休みが取れそうな気配(世間は秋である。そうだね、気が付いてた。今年も夏は終わってた)がしてきたので、半年にわたる繁忙期が終わったのだ…