おいしい煮つけになりたい

唐瓜直が何やら日記を書いたり、即興創作(140文字×X+α)したり、メモしたり。というブログ。

創作

電球頭と交換人

街角に立つ僕の首元ソケットは旧型で、どうしてか頭の電球を付け替えても付け替えてもすぐに消えてしまう。LED電球だというのに。 仕方なく安価な白熱電球を使っているけれど、これはこれで相性が悪いのか数週間でぷつりとつかなくなってしまう。いくら体系…

失敗しているのかもしれない

寒い冬の日に、三輪の自転車をこぐおばさんがゆったりとした呼び声を上げていた。 「アロエェーぇ、アロエー」 見れば後部のかごには山のようなアロエ。一鉢載せているだけなのに、やけにこんもりとしていて、ひどく目立つ。 地元では見たことがない光景だっ…

秋になるたび彼女は

「それでね」と近くの高校のサッカー部員について語るのは幼馴染の月子だ。 肩にかかる長さの、黒というより濃緑色の髪は赤く染まっている。生活指導の先生に注意されることもある髪だ。一年の時は僕が説明に駆り出されて大変だった。 月子の髪は葉っぱが紅…

2016年の首なし騎士

吾輩が首なしの騎士となってしまってからどれほどの時が過ぎただろうか。五年くらいだろうか。吾輩、まだまだ新入りである。 デュラハンではない。馬車はなく、死亡宣告もできない。首を小脇に抱えた小粋な騎士。それが吾輩である。ちょっと韻を踏んでみた。…

廃材と少女のダンス

「これ捨てておいてくれ」 そう先輩に頼まれたのはずぶぬれになった機材だった。ギター、ベース、キーボード、ドラムセット、アンプ、マイク―― 「ああ、水没シーンの。これ、もう使えないんですかね」 「ダメだろ。普段使ってるものじゃないらしいしな。お前…

夏の抜け殻

昼休み。会社を抜け出して近くの居酒屋でやっているランチを食べて会社に戻ってきた。汗をかいてしまっているから、事務所内の冷たい空気が気持ちいい。 午後の仕事を始めてすぐ。突然セミが天井で鳴き始めたので、騒然となった。 窓を開けたわけでもなく、…

今まで見守ってくれてありがとう

近隣に「頭おいてけよ」という変質者が出るという。出会ったらどうしようかと思っていたのだけど、今日の夕方、暗がりから声をかけられた。「頭、おいてけよ」その言葉に驚くでも恐怖を感じるでもなく、自然と髪をかき上げて首をさらけ出していた。「どうぞ…

日常に名残を探す

アイロンをかけ終えた後、何秒経てばあなたの体温になるのかわからなくていつも袖を通すタイミングがわからない。結果はたいてい二通りで、熱いか冷たいか。それは火にくべられている最中か、空気と同じ体温で、どちらにせよあなたは死んでしまっている。生…

打検の音が今日も聞こえる

打検の技術者として生きてきたが、新規工場を立ち上げるということでヘッドハンティングを受けた。誘いを受けた結果、給料は増えるし時間も短くなった。音は主に二種類。甲高い音と、似ているけれど少し不協和音が混ざっているような音。聞き分けるのは簡単…

食べごろのまま、この先もずっと。

創作人物に人権を。声高に叫ぶ老若男女は日に日に数を増してしまって、今では表に出ることさえできない。そういえば先輩作家の一人は廃業したという。彼はミステリ作家でたいてい人が死んだ。開始一行目から無残に死んだこともある。僕はどうしようか。カニ…

くるぶしは春の季語

春なのに気が重く俯いていたら、女性のくるぶしが目に入った。今まで気がつかなかったがくるぶしは時々ポロリと落ちるらしい。彼女が落としていったそれを拾い上げ、甘い匂いに思わず口に運ぶ。瑞々しく歯ごたえがあって美味い。彼女のくぼんだ足を思い出し…

帰郷

加熱されても発芽できるように、さらには生命力旺盛になるよう大豆は改良された。節分。撒かれた豆が芽吹き天に向かって伸びる。ビル群を破しながら。日本は巨大な蔓に囲まれた密林へと瞬時に姿を変えた。もうすぐ一部が月に届くらしい。倒壊した社屋から抜…

将来の夢は学校で使われる備品になることです

佐島さんを見かけた。春ごろに「バレエを習ってるの」って恥ずかしそうに笑っていた彼女だけど、最近は学校に来ていない。「うまく回れなくって。つま先をコンパスみたいにしなさいって」佐島さんは路上で回っていた。くるくると、つま先をとがらせて。コン…

消費期限:開封後3日

コンビニで売っている愛は量販店の洋服のようなもので、街中で見かけるとすぐ気づいてしまう。道路の向こう側、信号待ちをしている男性と愛がいた。購入時期が近いのかそっくりだ。交差点ですれ違う俺と彼と愛二つ。ふと俺の隣に立つ愛のほうが可愛く思えた…

キノコとタケノコもいつか生えるだろう

君はポケットに残ってしまうような些細な燃えるごみを植え込みに捨てる人だった。僕は両親からそういう教育を受けていなかったので驚いたけれど、「土に返るなら燃やすよりいいんじゃないかしら」という言葉にあっさりと言いくるめられた。なるほど、たしか…

おまえは今まで聞いた物語の話数を覚えているのか?

昔のことだ。僕がまだ子供のころのこと。 流れの百物語一座が来るというので、町内会は盛り上がっていた。もちろん僕の家も。父さんと母さん、それに妹。家族で近所の神社に張られた巨大な赤テントに入ると、隣の佐々木さんとか、久美ちゃん家もすでにきてい…

銀杏取りの朝は早い

今日から一週間、町内会で決められた街路樹当番だ。僕はこの当番が好きだった。父や母は仕事で忙しいから、代わりに僕が街路樹になる。樹になっている間はぼんやりしていていいし、学校も休みだ。でもこの時期のイチョウはやだな。この時期は朝からおばあさ…

定形外にもほどがある

「あたし本当は手紙なのよ!」幼馴染の彼女が唐突なことを言うのはいつもの事で、幼かった僕はそれに付き合っていた。「未来にも出せる?」「あたりまえでしょ!」じゃあ、と15年後の僕に届くよう願った。翌日彼女は行方不明になった。もう少しで約束の日。…

目覚める

理想の女性が店先にいると思ったらマネキンだった。女物の洋服を扱う店だったけれど足しげく通った。誰だって自分の好みの店員がいればその店をよく利用するだろう。そうこうしている間に季節が変わってマネキンも変わってしまった。仕方なくマネキン買いし…

アップデートが求められる

超有能なスーパー新入社員がいま、わが社の業績を支えている。高性能AI搭載自立学習型アンドロイド山田君は月給17万円で年中無休働き続けるナイスガイだ。ATOK搭載で関西弁もばっちりである。しかし、彼はいまだにISDN回線しか使えなくて、重たいファイルの…

輝く人

クリーニングに彼女を出す。なんでも洗いますと書いてあったからだ。彼女は薄汚れて駅前のベンチで横になっていたが、磨けば光るとすぐにわかった。一週間後に取りに行けば、彼女は見違えるほどに美しくなっていた。「次からはプレミアムコースがいいですよ…

月までの助走

ベンチに腰掛けていたら、前を通ったカップルが俺のほうを見た。何かおかしなところがあるだろうかと思ったが何のことはない。隣のベンチに家なしの老人が一人、ダイナミックな寝姿で横になっているのだ。エビ反りのような姿勢で、背中と座面には隙間ができ…

後日、似顔絵大会をしたらみんなカボチャを描いた

仮装でごった返していたはずの渋谷も翌日の朝には一度その騒ぎ終えて、静かなものだ。大学の連中も帰ってしまった。目の前の山田だけを残して。俺も帰ってもよかったのだけど、カボチャのかぶりものをしたこいつが電信柱によりかかったまま、カラスについば…

Cになれば見えなくなる

向かいに座る彼女をドーナツの穴越しに眺めてみた。「何が見えた?」「君と、幸せそうな俺かな」彼女はほっとした様子で、オールドファッションを一口。ドーナツ越しに未来が見えるなんて戯言を信じてくれた君が好きだった。ドーナツホールがCに変わる。君が…

譲ってあげる

霜柱を踏みながら小学校に通うのが好きなのだけど、最近は先客に踏みにじられた跡だ。犯人は知ってるんだ。バス停に立っていたお姉さんだ。白い靴がふやけて、土汚れがにじんでいた。僕は知ってるんだ。あの人が泣きそうになりながら、霜柱を踏んでることを…

承認欲求

刀鍛冶が作の出来映えを知りたくて、出入りの商人、果ては妻娘まで切り裂いてしまった。とらえられた彼はその最後の一振りでの打首を望んだのだが、処刑人の腰が引けていけない。縄をはずせ、刀をよこせ。戸惑うあたりをよそに処刑人はいわれるがまま。男は…

月に向かう流星を見たんだ

ジェットコースターがレールを外れ月に向かって飛び出した。メンテナンスエンジニアの仕業だ。彼はこの遊園地が好きだった。もうすぐ廃園になるけれど子供のころから通っていた、大切な場所だ。記憶の中にだけでもここが残ればいい。それが月に行くコースタ…

ネズミ算式に増える

収納を増やそうと買ってきたのはプラスチック製の引き出しだ。四段もあれば足りるだろうと、さっそく一番下の引き出しを開ける。特に取説もない完成品を買ってきたのだが入っているものがあった。折りたたまれた布のようなものだ。一体これは何かと思い出し…

アルミ缶を潰すそれに似ている

救命用の浮き輪から手を離す。これで君は助かるだ。なのに沈む僕の手をつかんだのは残してきたはずの君だった。そういえば船に乗る前に言ってたっけ。「海の底には白く光る街がある」って。不思議なほど静かな海中を、君と固く手を結んだまま沈んでいく。白…

まだ指を絡めることもできない

週刊「ポンパドール夫人」の購読を初めて数か月が経つ。第24回のパーツは左手の小指、第一関節。完成までの巻数は明らかにされていない。生きているうちに完結するのかも怪しいのが、それでも絶世の美女を組み立てることができるというのは楽しい。うまく組…

彼女にはトルソーと言い張っている

「お腹が痛い」と道端にうずくまる女がいた。腹をとってしまえばいいではないかと提案したら、彼女はどうして気が付かなかったのかと胸の下から腰の上までをすっと取り外してしまった。「お礼に」と言われ、その取り外された腹を受け取ったのだが、捨てるわ…

マーケットに行く、が正しいのではないか

スーパーを出て視界に入ったのは蜘蛛だった。歩道の中央にぷらぷらただよい、これから巣作りなんです、といった具合に横糸を街路樹と壁に張っていた。道をふさぐほどの大きさになるだろう。巣を眺める僕を追い抜かす人がいた。トレーニングウェアを着た若い…

星降る夜に

三度、君の復活を願うが蘇る気配はない。今夜は流星群が訪れている。まだチャンスはあるだろう。人の死により星が流れるというのなら、今宵、どれだけの人が死んだのか。僕は明るくなってきた空に、願うことをやめた。「どうしてやめるの」背後から聞こえた…

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