創作
「さりさりと妻が削れる音がする」をKindleダイレクトパブリッシングで販売したので反省する 長い見出しの通り、原稿の作成からKDPでの公開と無料キャンペーンの実施まで、無事に(?)終わりました。 さりさりと妻が削れる音がする 作者:唐瓜 直 Amazon 今…
「さりさりと妻が削れる音がする」の販売が始まりました。 一度やってみようと思っていたAmazon Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)での販売になります。 ~2021/9/3(終了時間不明)まで期間限定セール中(500円→0円)となっていますので、よろしければ…
* * * 施設での生活は何事もなく過ぎていく。ここで何をしていたかと言えば、何もしていない。社会人にあるまじき、起きて寝るだけに等しい自堕落な生活をしていた。 毎朝目覚めれば徒花は勝手に部屋に入り込んでいて、僕が起きるのをベッドの端に座って…
* * * 海沿いにあるひなびた駅。そこから車で三十分ほどのところに療養所はあった。 守衛が立ち、門が閉ざされた入り口は、僕が勝手に想像していた施設よりも物々しい。 確認手続きが終わるまでの間、少しだけ待たされることになった。 幸いなことに門の…
BGM代わりのニュースを流しながら、原稿に目を通していた。 世の校正者達がそろって言うのだ。『わ』とか『かしら』とか『よ』とかそういった語尾で喋る女性はあまりいないと。真赤に校正された経験から僕は自分でチェック時にそういった言葉を排除するよう…
男が一人、バス停のベンチに座り込んでいた。その口は規則的に動いて、何事かを呟いている。 視界の先にあるのは、人々が集う発電スペースだ。国によって定められた各自のノルマを減らすために、空いた時間をつかって発電にいそしんでいる。 集まった人間に…
街角に立つ僕の首元ソケットは旧型で、どうしてか頭の電球を付け替えても付け替えてもすぐに消えてしまう。LED電球だというのに。 仕方なく安価な白熱電球を使っているけれど、これはこれで相性が悪いのか数週間でぷつりとつかなくなってしまう。いくら体系…
寒い冬の日に、三輪の自転車をこぐおばさんがゆったりとした呼び声を上げていた。 「アロエェーぇ、アロエー」 見れば後部のかごには山のようなアロエ。一鉢載せているだけなのに、やけにこんもりとしていて、ひどく目立つ。 地元では見たことがない光景だっ…
「それでね」と近くの高校のサッカー部員について語るのは幼馴染の月子だ。 肩にかかる長さの、黒というより濃緑色の髪は赤く染まっている。生活指導の先生に注意されることもある髪だ。一年の時は僕が説明に駆り出されて大変だった。 月子の髪は葉っぱが紅…
吾輩が首なしの騎士となってしまってからどれほどの時が過ぎただろうか。五年くらいだろうか。吾輩、まだまだ新入りである。 デュラハンではない。馬車はなく、死亡宣告もできない。首を小脇に抱えた小粋な騎士。それが吾輩である。ちょっと韻を踏んでみた。…
「これ捨てておいてくれ」 そう先輩に頼まれたのはずぶぬれになった機材だった。ギター、ベース、キーボード、ドラムセット、アンプ、マイク―― 「ああ、水没シーンの。これ、もう使えないんですかね」 「ダメだろ。普段使ってるものじゃないらしいしな。お前…
昼休み。会社を抜け出して近くの居酒屋でやっているランチを食べて会社に戻ってきた。汗をかいてしまっているから、事務所内の冷たい空気が気持ちいい。 午後の仕事を始めてすぐ。突然セミが天井で鳴き始めたので、騒然となった。 窓を開けたわけでもなく、…
近隣に「頭おいてけよ」という変質者が出るという。出会ったらどうしようかと思っていたのだけど、今日の夕方、暗がりから声をかけられた。「頭、おいてけよ」その言葉に驚くでも恐怖を感じるでもなく、自然と髪をかき上げて首をさらけ出していた。「どうぞ…
アイロンをかけ終えた後、何秒経てばあなたの体温になるのかわからなくていつも袖を通すタイミングがわからない。結果はたいてい二通りで、熱いか冷たいか。それは火にくべられている最中か、空気と同じ体温で、どちらにせよあなたは死んでしまっている。生…
打検の技術者として生きてきたが、新規工場を立ち上げるということでヘッドハンティングを受けた。誘いを受けた結果、給料は増えるし時間も短くなった。音は主に二種類。甲高い音と、似ているけれど少し不協和音が混ざっているような音。聞き分けるのは簡単…
創作人物に人権を。声高に叫ぶ老若男女は日に日に数を増してしまって、今では表に出ることさえできない。そういえば先輩作家の一人は廃業したという。彼はミステリ作家でたいてい人が死んだ。開始一行目から無残に死んだこともある。僕はどうしようか。カニ…
春なのに気が重く俯いていたら、女性のくるぶしが目に入った。今まで気がつかなかったがくるぶしは時々ポロリと落ちるらしい。彼女が落としていったそれを拾い上げ、甘い匂いに思わず口に運ぶ。瑞々しく歯ごたえがあって美味い。彼女のくぼんだ足を思い出し…
加熱されても発芽できるように、さらには生命力旺盛になるよう大豆は改良された。節分。撒かれた豆が芽吹き天に向かって伸びる。ビル群を破しながら。日本は巨大な蔓に囲まれた密林へと瞬時に姿を変えた。もうすぐ一部が月に届くらしい。倒壊した社屋から抜…
佐島さんを見かけた。春ごろに「バレエを習ってるの」って恥ずかしそうに笑っていた彼女だけど、最近は学校に来ていない。「うまく回れなくって。つま先をコンパスみたいにしなさいって」佐島さんは路上で回っていた。くるくると、つま先をとがらせて。コン…
コンビニで売っている愛は量販店の洋服のようなもので、街中で見かけるとすぐ気づいてしまう。道路の向こう側、信号待ちをしている男性と愛がいた。購入時期が近いのかそっくりだ。交差点ですれ違う俺と彼と愛二つ。ふと俺の隣に立つ愛のほうが可愛く思えた…
君はポケットに残ってしまうような些細な燃えるごみを植え込みに捨てる人だった。僕は両親からそういう教育を受けていなかったので驚いたけれど、「土に返るなら燃やすよりいいんじゃないかしら」という言葉にあっさりと言いくるめられた。なるほど、たしか…
昔のことだ。僕がまだ子供のころのこと。 流れの百物語一座が来るというので、町内会は盛り上がっていた。もちろん僕の家も。父さんと母さん、それに妹。家族で近所の神社に張られた巨大な赤テントに入ると、隣の佐々木さんとか、久美ちゃん家もすでにきてい…
今日から一週間、町内会で決められた街路樹当番だ。僕はこの当番が好きだった。父や母は仕事で忙しいから、代わりに僕が街路樹になる。樹になっている間はぼんやりしていていいし、学校も休みだ。でもこの時期のイチョウはやだな。この時期は朝からおばあさ…
「あたし本当は手紙なのよ!」幼馴染の彼女が唐突なことを言うのはいつもの事で、幼かった僕はそれに付き合っていた。「未来にも出せる?」「あたりまえでしょ!」じゃあ、と15年後の僕に届くよう願った。翌日彼女は行方不明になった。もう少しで約束の日。…
理想の女性が店先にいると思ったらマネキンだった。女物の洋服を扱う店だったけれど足しげく通った。誰だって自分の好みの店員がいればその店をよく利用するだろう。そうこうしている間に季節が変わってマネキンも変わってしまった。仕方なくマネキン買いし…
超有能なスーパー新入社員がいま、わが社の業績を支えている。高性能AI搭載自立学習型アンドロイド山田君は月給17万円で年中無休働き続けるナイスガイだ。ATOK搭載で関西弁もばっちりである。しかし、彼はいまだにISDN回線しか使えなくて、重たいファイルの…
クリーニングに彼女を出す。なんでも洗いますと書いてあったからだ。彼女は薄汚れて駅前のベンチで横になっていたが、磨けば光るとすぐにわかった。一週間後に取りに行けば、彼女は見違えるほどに美しくなっていた。「次からはプレミアムコースがいいですよ…
ベンチに腰掛けていたら、前を通ったカップルが俺のほうを見た。何かおかしなところがあるだろうかと思ったが何のことはない。隣のベンチに家なしの老人が一人、ダイナミックな寝姿で横になっているのだ。エビ反りのような姿勢で、背中と座面には隙間ができ…
仮装でごった返していたはずの渋谷も翌日の朝には一度その騒ぎ終えて、静かなものだ。大学の連中も帰ってしまった。目の前の山田だけを残して。俺も帰ってもよかったのだけど、カボチャのかぶりものをしたこいつが電信柱によりかかったまま、カラスについば…
向かいに座る彼女をドーナツの穴越しに眺めてみた。「何が見えた?」「君と、幸せそうな俺かな」彼女はほっとした様子で、オールドファッションを一口。ドーナツ越しに未来が見えるなんて戯言を信じてくれた君が好きだった。ドーナツホールがCに変わる。君が…