電球頭と交換人
街角に立つ僕の首元ソケットは旧型で、どうしてか頭の電球を付け替えても付け替えてもすぐに消えてしまう。LED電球だというのに。
仕方なく安価な白熱電球を使っているけれど、これはこれで相性が悪いのか数週間でぷつりとつかなくなってしまう。いくら体系を維持して、スーツでめかしこんで見せたところで明かりをまっとうにつけられない電灯に何の意味があるだろうか。
「そういうこともあるよ」
励ましてくれるのは電球交換人の少女だった。彼女は毎日のように僕のところに来ては電球の様子を確認して、フィラメントが切れてしまったら、すぐに電球を交換してくれる。
「それが仕事だもの」と笑う彼女に僕は跪いて頭を交換してもらっていた。
治療の話が来たのは新年を迎えてすぐのことで、僕は粉雪が舞う中で冬物のキルティングコートに身を包んで傘をさしていた。
「出力系の異常だね」と言ったのは年老いた技術者で、僕の頭を二度三度のぞきこんですぐに答えを出した。
「直るんですか」
「ほんの数分の修理でね」
長年の悩みは、あっさりと解消された。
そして僕は晴れてLED電球になることができた。
技術者と一緒に僕のところに来た電球交換人の彼女は「寂しくなるわ」と僕の頭を付け替えながらそう言った。
「本当はだめなんだろうけれど、これもあなたの一部だったものだから」と彼女は僕の手に、交換した白熱電球をのせた。
僕はあの日以来、明かりを絶やすことなく街角に立ち続けている。
LEDの光は、夜道を行く人を導いている。雨の日も風の日も嵐の日も僕のLED電球は輝き続けた。
電球交換の職は失われたと、新聞で知った。僕が最後の白熱電球で、彼女の仕事は僕の頭を交換することで成り立っていた。
彼女が今どうしているのか、僕は知らない。
不意にやるせなさがこみあげてきて、僕は自力で電球の交換に挑んだ。もちろん、付け替えるのはあの日残していった白熱電球だ。
電球交換人が成り立っていたのは、僕たちみたいな電球は一人で交換を行えないからだ。案の定僕は頭をくるくると回しているうちにめまいのような症状に襲われてしまって、その場にへたり込んだ。
それでもどうにかLED電球を外す。あたりの様子が暗くなってしまって、何も見えない。それでも僕は自分の手先の感覚で、白熱電球を手にする。だけど、どうにもこうにもソケットにはまらなくて、しまいには落としてしまいそうになった。
どれほどの時間がたっただろうか。付け替える気力を失い、暗闇の中で僕は座り込んだ。
思い出されるのは彼女の手つきだ。だけど、僕にはそれを再現することができない。あの、柔らかで、すばやい、魔法のような手つき。
ふと、誰かの気配が近づいてくるのがわかった。明かりを灯さないといけない。どうすれば、どうやって。
「こうするのよ」
懐かしい声を、僕は聞いた。