秋になるたび彼女は
「それでね」と近くの高校のサッカー部員について語るのは幼馴染の月子だ。
肩にかかる長さの、黒というより濃緑色の髪は赤く染まっている。生活指導の先生に注意されることもある髪だ。一年の時は僕が説明に駆り出されて大変だった。
月子の髪は葉っぱが紅葉する様に季節によって色を変える。冬になると抜けはしないが先のほうがボロボロになってしまうから短くせざるを得ない。彼女の髪を見て僕は季節を感じる。
「月子、わるいけど、僕委員会の仕事中なんだよ」
うちの学校があまり図書室利用者が多くないとはいえ、暇というわけではない。カウンターに腰掛けてずっと話しかけられるのは困ってしまう。司書教諭の宗像先生が呆れた目でこちらを見ているのに、月子は気づいていないのだろうか。
「格好いいんだー」と口でドリブルの様子やらを語って見せた。身振り手振りも加わっているが、奇妙な踊りを踊っているようで意中の彼とやらの格好良さは伝わってこない。
月子は夏に元気になり、秋に恋に落ち、冬に失恋し、そして春まで僕が励ます。
長い付き合いでずっとそんなサイクルを続けてきた。
月子は説明をひとしきり終えると、そわそわと時計を見た。気になっている彼のことを見に近くの高校に行きたいのだろう。
「別に、僕の事待たなくていいんだよ」
「ほんと!?」
「いや、約束してるわけでもないでしょ」
「あ、でも、帰る時回収して」月子はスーパーの広告の品を買わせたいがために僕の帰宅時間を待っていたのだ。これも、いつものことだから僕は何も言わない。
「はいはい。あ、ちょっと待って」
僕は彼女の襟元に落ちていた髪の毛を取ってあげる。
「鏡は見てからいきなね」
「はーい。あとで迎えに来てね?」
手を払うようにして月子を見送った。こんな関係も、あと二年も続かないだろう。たぶん。大学は別になるような気がしていた。そうしたら会うこともなくなるのだろう。
初恋をこじらせているという実感はあった。手にした彼女の髪の毛は、一本だけ見ても赤い。
運命の赤い糸があるとしたら、僕と彼女の間にはむすばってないのだろう。思い付きで、手にした髪の毛を薬指に結わえてみるが、ばかばかしくなってしまう。
ずっと見ていたのだろう、「やだ。青春ね」と宗像先生が言った。