おいしい煮つけになりたい

唐瓜直が何やら日記を書いたり、即興創作(140文字×X+α)したり、メモしたり。というブログ。

2016年の首なし騎士

 吾輩が首なしの騎士となってしまってからどれほどの時が過ぎただろうか。五年くらいだろうか。吾輩、まだまだ新入りである。

 デュラハンではない。馬車はなく、死亡宣告もできない。首を小脇に抱えた小粋な騎士。それが吾輩である。ちょっと韻を踏んでみた。これもきっと渋谷という若者の街がそうさせたのだろう。ちょっと赤面。

 吾輩たち異形の者は一昔前から存在は確認されていた。当時は肉体と首がUSBケーブルで結ばれていた。今は勿論Blootoothである。

 これによってより見栄え良く首を抱えることが可能になった。無線である! 無線! もう通勤途中の満員電車で、降りていく人のカバンに引っかかって通信切断、勢いであわや首だけホームと車両の隙間へ……、なんてこともないのである。

 だけど、別の問題も発生している。というか今現在、非常によろしくない状態になっているのである。

 酔っ払いによるかっぱらいである。

 吾輩の首を抱えて気持ちよさそうに眠るこの貴婦人はどなただろうか。ゾンビのような恰好をしているが、吾輩の耳にはしっかりと鼓動も聞こえるし、つまりはその、豊満なその、あったかいその、いやはや……。

 結婚前の貴婦人の部屋に連れ込まれるとは、吾輩、不覚。

 ハロウィンの夜、酔った勢いで小道具と勘違いして頭をもっていくのはできればやめていただきたい。というか、他人の小道具を持って行ってはいけないはずである。あまりの早業であり、人ごみに飲まれてしまったこともあって、胴体とのペアリングが切れてしまった。

 渋谷の街で打ち上げなどやるのではなかった。丸の内とか、騒ぎと関係なさそうな街を選ぶべきだったのだ。連絡の取りようもなく、吾輩無断欠席野郎である。騎士の風上にも置けない存在だと、おそらく酒の席で格好の話題である。誤解を解きたいのだが、首だけでは難しい。

 もしもパントマイム中のように固まった甲冑を見かけても、落書きなどせずにそっとしておいてほしい。いや、無理だろうなあ。わかってはいるのだ。きっと、今頃油性ペンで落書きされているのだ……。それでも、と思ってしまう。

 明日、胴体は拾得物として警察に届いているだろうか。汚れはひどくないだろうか。嗚呼、吾輩、今夜は不安な一夜を過ごすことになりそうである。