創作
霜柱を踏みながら小学校に通うのが好きなのだけど、最近は先客に踏みにじられた跡だ。犯人は知ってるんだ。バス停に立っていたお姉さんだ。白い靴がふやけて、土汚れがにじんでいた。僕は知ってるんだ。あの人が泣きそうになりながら、霜柱を踏んでることを…
刀鍛冶が作の出来映えを知りたくて、出入りの商人、果ては妻娘まで切り裂いてしまった。とらえられた彼はその最後の一振りでの打首を望んだのだが、処刑人の腰が引けていけない。縄をはずせ、刀をよこせ。戸惑うあたりをよそに処刑人はいわれるがまま。男は…
ジェットコースターがレールを外れ月に向かって飛び出した。メンテナンスエンジニアの仕業だ。彼はこの遊園地が好きだった。もうすぐ廃園になるけれど子供のころから通っていた、大切な場所だ。記憶の中にだけでもここが残ればいい。それが月に行くコースタ…
収納を増やそうと買ってきたのはプラスチック製の引き出しだ。四段もあれば足りるだろうと、さっそく一番下の引き出しを開ける。特に取説もない完成品を買ってきたのだが入っているものがあった。折りたたまれた布のようなものだ。一体これは何かと思い出し…
救命用の浮き輪から手を離す。これで君は助かるだ。なのに沈む僕の手をつかんだのは残してきたはずの君だった。そういえば船に乗る前に言ってたっけ。「海の底には白く光る街がある」って。不思議なほど静かな海中を、君と固く手を結んだまま沈んでいく。白…
週刊「ポンパドール夫人」の購読を初めて数か月が経つ。第24回のパーツは左手の小指、第一関節。完成までの巻数は明らかにされていない。生きているうちに完結するのかも怪しいのが、それでも絶世の美女を組み立てることができるというのは楽しい。うまく組…
「お腹が痛い」と道端にうずくまる女がいた。腹をとってしまえばいいではないかと提案したら、彼女はどうして気が付かなかったのかと胸の下から腰の上までをすっと取り外してしまった。「お礼に」と言われ、その取り外された腹を受け取ったのだが、捨てるわ…
スーパーを出て視界に入ったのは蜘蛛だった。歩道の中央にぷらぷらただよい、これから巣作りなんです、といった具合に横糸を街路樹と壁に張っていた。道をふさぐほどの大きさになるだろう。巣を眺める僕を追い抜かす人がいた。トレーニングウェアを着た若い…
三度、君の復活を願うが蘇る気配はない。今夜は流星群が訪れている。まだチャンスはあるだろう。人の死により星が流れるというのなら、今宵、どれだけの人が死んだのか。僕は明るくなってきた空に、願うことをやめた。「どうしてやめるの」背後から聞こえた…