読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

おいしい煮つけになりたい

唐瓜直が何やら日記を書いたり、即興創作(140文字×X+α)したり、メモしたり。というブログ。

夏の抜け殻

創作

 昼休み。会社を抜け出して近くの居酒屋でやっているランチを食べて会社に戻ってきた。汗をかいてしまっているから、事務所内の冷たい空気が気持ちいい。

 午後の仕事を始めてすぐ。突然セミが天井で鳴き始めたので、騒然となった。

 窓を開けたわけでもなく、入口の扉も閉め切っている。もちろん、人について出入りしてきたということであれば仕方がないのだけれど、止まられた時点で気が付くだろう。

 結構な大きさのアブラゼミだった。

 海外では不透明な翅の蝉は珍しいと聞いた覚えがある。嘘か本当かは知らないが、ミンミンゼミのような透明な翅の蝉が主流らしいと。

 アブラゼミ氏(鳴いているので雄である)は窓のわきに止まってじじじじと鳴いていた。彼は絶賛子育て中のイクメンパパさんに捕獲されて社外へと退出させられた。

 どこから入ってきたのか、という話題が出たけれども、みんな仕事へと戻っていく。さっと素手で捕まえたイクメンパパさんに対して賞賛がやまぬオフィスの中、僕は見た。新しく派遣ではいった女性の後頸部を。

 隙間が空いていた。

 そこにひしめく蝉の幼虫を、僕は確かに見た。抜け殻になる前の、まだ中身が残っている、茶色い姿だ。

 夜を待ちきれなかったのか、それとも昨夜一匹だけ抜け出して羽化してしまったのか。

 翌日、派遣さんから契約の打ち切りについて打診があった。

 更新はしないつもりであると告げる彼女。その表面はずいぶんとしわしわになって、まるで中身がないようだったけれど、社内のだれも気にしなかった。

 僕はふと、コピーを取りに行くついでに彼女の首筋を見た。もう中には一匹の蝉も残っていないようだった。

 

 しわくちゃになって、派遣さんはいなくなった。

 九月に入って蝉の声もだんだんと弱くなっていく。会社からの帰り道、聞こえる虫の音はだんだんと秋のそれに代わっていく。

 夏が終わる。

広告を非表示にする

記事の転載等はご遠慮ください。