おいしい煮つけになりたい

唐瓜直が何やら日記を書いたり、即興創作(140文字×X+α)したり、メモしたり。というブログ。

後日、似顔絵大会をしたらみんなカボチャを描いた

 仮装でごった返していたはずの渋谷も翌日の朝には一度その騒ぎ終えて、静かなものだ。大学の連中も帰ってしまった。目の前の山田だけを残して。俺も帰ってもよかったのだけど、カボチャのかぶりものをしたこいつが電信柱によりかかったまま、カラスについばまれそうになっているので帰れなかったのだ。

「お前、帰らないの?」という俺の声に山田は振り向き、帰ろうかな、とつぶやいた。こいつ、こんな声をしていただろうか。ひょっとしたらヘリウムガスか何かを吸って、それが残っているのだろうか。どこかぼんやりとした、変に響く声色だ。ぼわんぼわんとして、特徴的すぎてすこしだけ聞き取りずらい。

「よし帰るか」と山田は言って、宙に浮かんだ。俺のほうを見て「今までありがとう」と続ける。反応が鈍い僕を気にしてくれてありがとう。僕、見ての通りの南瓜頭だからさ。いつだってぼんやりしてるんだ。中身が空っぽで、声も反響してしまう。知ってるかい。スラングなんだぜパンプキンヘッドってさ。

 頭をつつくカラスを振り払うわけでもなく、山田は宙に浮かんでいった。「お礼だよ」手のひらサイズの袋が降ってきた。拾いながら「ちょっと待て」と声をかけたが、もし待たれても「お前、ひーほーって口癖だったりするのか」ってことくらいしか聞けることがない。その程度の中だったのだ。こいつとは。

 結局山田は待つことなく浮かんで消えた。カラスの群れを引き連れて。果たしてあいつはどこに帰ったのだろうか。手にした袋の中には、カボチャの種が入っていた。緑色のものではなくて、硬い殻に包まれている状態のやつだ。眺めながらふと気づく。あいつがどんな顔をしていたのかも思い出せないことに。

 教室でもサークルの集まりでもゼミの発表でも、あいつはいつも南瓜頭だったような気さえしてくる。まさかそんなはずはない。きっと昨日のばか騒ぎで疲れてるんだと思いながら俺は駅に向かって歩き出した。普段であればゴミをあさっているはずのカラスは、どうしてか一羽たりともその姿を見せなかった。