おいしい煮つけになりたい

唐瓜直が何やら日記を書いたり、即興創作(140文字×X+α)したり、メモしたり。というブログ。

承認欲求

 刀鍛冶が作の出来映えを知りたくて、出入りの商人、果ては妻娘まで切り裂いてしまった。とらえられた彼はその最後の一振りでの打首を望んだのだが、処刑人の腰が引けていけない。縄をはずせ、刀をよこせ。戸惑うあたりをよそに処刑人はいわれるがまま。男はこうやるのだ、と自らの首をばらりずんずん。

 宙を舞った首はくるくると回って、断面を下にびたりと落ちた。着地一番生首は、「見事!」のかけ声を残して果てた。声はそれだけではなかった。「よっ!」「お見事!」との声がしてあたりを見れば昼間だというのに男に切られたものたちが、切り口鮮やかな幽体となって拍手喝采やんややんやと騒ぐのだ。

  それ以降、処刑人には絶えず幽霊たちがつきまとい、あれがいかんこれがいかんと指摘してくる。最初は疎ましかったが太刀筋は日を追って良くなり、一年の後に処刑人は納得の太刀筋で首を切り落とした。彼は「見事」のかけ声を期待したが、刀鍛冶をはじめすべての幽霊はそれっきり表れなくなったという。

 己はこんなにも素晴らしい太刀筋になったのに、あんまりじゃないか。処刑人は嘆き悲しんだ。認められたかっただけなのだ。街に人切りがではじめたのはそのころからだ。手にはなまくらな刀を持っていて、夜道で人を切る。太刀筋見てゆけ、見たならお見事おいていけ。そう人切りは口にしていたそうだ。